五.シバムギ

高校生たちは短大生の後ろに座っている。三本所長は観察するように、後ろの席に座る生徒たちに目を向けた。そこには森本と石崎、そして内燃の姿もあった。

「そして、五年に一度は草地更新をする。こうすることで雑草が増える前にリセットをかけることができる。雑草が減って、牧草が増えれば、栄養価が上がって乳量も上がる。そうすれば粗収益も増えて経営にもプラスだ」

「この方法、試してみる価値があると思わないか」

目立たないように森本はささやく。

「その通りです。今年のプロジェクト研究はこれに決まりですね」と石崎。

「『草地完全更新による植生改善と経営改善』ってのはどうです?」石崎は、早速プロジェクト研究のタイトルを考えているようである。

なお、プロジェクト研究は、生徒が疑問を持って解決したい、と考えたことを一年間かけて行う研究活動である

一番後ろの酪農科三年の席で内燃は、

(所長の野郎、草地更新にどれだけ金がかかるか知って言ってんだろうか)

(コストをかぶるのは酪農家だぜ。五年に一度、草地更新といったら今までの倍以上草地更新をするということじゃねぇか。コストだって倍以上にならぁ)

と、心の中でつぶやいた。商店の息子だけあって、経営感覚が鋭いのである。