四.電気伝導度

そこへふらっと様子を見に来たのが、水産科の富阪先生である。

黒板を見るなり、

「へぇー。面白いデータが出てきたなぁ」

「散布図にすれば、面白いかもな」

そんな富阪に川原は、「先生。散布図とは何です?」とちょっと怪訝そうに聞く。

その言葉に富阪は、「やってみれば分かるさ」と、黒板に横軸と縦軸をすっと引いた。

「まあ、比例でおなじみのⅩYグラフだなぁ。Xが横軸でYが縦軸だ」

「ここでは横軸を乳牛頭数としよう。これが原因だからね。そして縦軸を電気伝導度としよう。これが結果だからね」

「まずニシベツ川源流からいってみようか。周りに牛がいないからXは0だ。そして電気伝導度は0.05だな。これがYだ。0と0.05、これがぶつかるところに●印を書こう」

XYグラフに一つの●が描かれた。

「よし川原、他の六つの調査地点も同じように●をつけてみてくれ」

川原は言われるがまま、残り六つの●をXYグラフに書きこんだ。

「OK。では諸君、この●の連なりが、一本の線に見えないか?」

その場にいた全員が、あっと息を呑んだ。●の連なりは明らかに右肩上がりになっている。

「先生、これは、牛が増えると電気伝導度が上がる、と考えていいんですか?」

「そう、ほぼ間違いない。流域の牛が増えると電気伝導度が上がる。つまり川は汚れている、ということになる。初めてグラフで表された事実だな」

川原は、黒板をスマホで撮影した。

「スマホがあるんなら、モバイルのエクセルで、もっときれいに散布図が描ける。それに、本当に比例関係があるかどうかも解析できるぞ」

富阪は少し満足げにこう言った。