【前回の記事を読む】「働くことって、こんなことだったの?」適応障害になった原因は…
第3章 ≪エピソード≫ 職場に行くのがつらい
2 やさしくしてほしい……
≪再研修を命じられ、一人でいると涙が出てくるⅭさん≫
1のタイプと違うところは、ある程度仕事をしてきていることと、仕事の評価や叱責などが契機となっていることです。パワハラなのかどうかは微妙なところです。上司だって人間ですから、感情的になることもあります。とんでもないミスなのか、本人の労働能力の問題なのか、パワハラか、状況の判断が難しいです。
不備を指摘される、注意される、叱られる、当たられる、そんな上司や周りの反応に傷つき、不安になり、怖くなり、出勤するのがイヤになる。その因果関係を自覚しているかどうかは別として、身体症状に出る、気分が落ち込むなどに至ります。
(それなりに仕事をしてきたのに、評価してもらえない)(できるように、失敗しないように、教えてもらっていないのに)(責任を求められても困る、上司に当たられてもつらい)(こんなの理不尽だ、ブラックだ)と心のつぶやき。
ブラックかどうかはわかりませんが、
「そんなふうに言わなくてもいいじゃないですか!」
「そんなことを言うなら辞めてやる!」
とは言わないわけで(若者はそんなことは言いません)、意地悪く言ってしまうと(やさしくしてほしい……)というつぶやきも聞こえます。
若者の打たれ弱さなどと言われてしまうかもしれませんが、年長者も若い頃は同じように失敗してひどく落ち込んだこともあったではありませんか。いずれにせよ、このような相談を受けた時は、個々の状況に分け入ることはできませんし、若者は本当につらいのですから、本人の訴えや症状に沿って理解するしかありません。
3 自殺に至ってしまうかもしれない
≪ひとつの大変な案件が終わっても、症状が改善しないEさん≫
広告会社に新卒入社し半年が過ぎた。忙しい日々だった。与えられた仕事には責任を持って取り組むように、わからないことがあれば聞くように言われたが、周りも忙しいので気軽には聞けず、できるだけ自分で何とかしてがんばってきた。
残業も多かった。給与も見込み残業(固定残業制:予めお給料に残業分が組み込まれていて所定の時間以上の残業代は支給されない給与形態)だったので、残業は当たり前だと思っていた。
同じシマの先輩が大きな仕事を任されたので、先輩が今まで持っていた案件を手伝うように言われた。大きな案件でもあり、自分の仕事をしながら手伝った。残業は日常化し深夜に及ぶこともあった。手伝っている案件の進捗状況を伝えると、
「俺さー、忙しいんだよねー、悪いっ、もうちょっとがんばってもらえるかなー」
と暗にがんばりが足りないと言われたように思った。残業が続くと頭が回らず、気持ちも沈み、食欲もなく、短い睡眠時間もよく眠れなくなった。ともかくやらなきゃと泥のように毎日出社した。楽しみも他のことへの意欲もなく、仕事が生活のすべてを覆っていた。
先輩の大きな仕事も終わり、手伝っていた案件も先輩に戻した。一応「ありがとう」と言ってくれたが、気持ちはなかなか明るくなれない。楽しみも意欲もわかない。食欲も睡眠も思ったように回復しない。(みんなこういうところを通ってきたに違いない)と思うと、自分が不甲斐ない。
その後ストレスチェックに引っかかり、産業医面談があり、メンタルクリニックの受診を勧められた。