第3章  ≪エピソード≫ 職場に行くのがつらい

この章ではエピソードをいくつかあげてみたいと思いますが、これらは特定の誰かではありません。同じようなエピソードからエッセンスをまとめ一人の人として描いたものです。

1 働くって、こんなことだったの? 

≪いざ仕事が始まったら、つらくなってきたAさん≫

大学を卒業し、新卒採用で大手食品メーカーに就職した。入社後1カ月は本社研修があり、自宅から通うことができた。研修はそれなりに楽しかった。同期入社の知り合いもできた。研修後配属先が決まり、地方の支社に行くことになった。

初めての土地だった。引越も済み、がんばろうと思った。新人は自分も含め二人で、別々の部署に配属になり、実質新人は自分一人だった。自分は販売促進の部署で先輩に付いてスーパーなどを回った。新商品の売り出し当日、先輩から指示された書類をうっかり持って行くのを忘れてしまった。

「えっ⁉ 忘れたの⁉ 先方に渡す書類だから見ておいてねって……。忘れたらダメだろう」

「すみません……」

「じゃあ、明日一人で届けに来てね」

「はい……」

会社に戻ると、課長にも書類の保管管理はしっかりするように注意された。

それ以来、職場に行くと責められているような気がした。(自分はダメなヤツだと思われているのではないか)、自信がなくなってきた。別の部署に配属された新人は元気にやっているようだ。これからがんばればいいという思いと(また失敗するのではないか)という不安が交錯した。

徐々に出勤の朝になると気が重くなり、次第にお腹が痛くなり下痢をするようになった。慣れない土地での生活、スーパーにやっと慣れたくらいで、話す人も気晴らしに行く場所もなかった。どんどん症状は強くなり、職場を休んでしまい、メンタルクリニックを受診した。