【前回の記事を読む】忘れ物を探し、夜の神社へ戻った男…本殿の裏から、何かが蠢く音がする。巫女に尋ねても「“食事”をしていまして……」としか言わず……
第一章
葉みくじ
そこは行き止まりになって、八畳間ほどの部屋に金網が三段ほど重なる棚があった。
壁側に本殿で見たのと同じ丸く大きな鏡があった。
「これは、カイコですか?」
「いいえ。蝶々と、ただの蛾の幼虫です」
「ザワザワいう音はこれだったのか。食べているのは桑とかの葉ですか?」
「それも違います。彼らが食べているのは『葉みくじ』の葉なんです。昼間参拝の皆さんが引いた、あの『葉みくじ』ですわ」
そう言われれば葉に何か文字らしいのがあるのを見てとれた。エサにするために「葉みくじ」を集めていたとは……。参拝者が聞いたらさぞかし怒るだろう。
「私は次から次へと孵る幼虫に『葉みくじ』の葉を与えているのです」
巫女さんは静かに言った。
「どうして『葉みくじ』の葉でなくてはならないんですか? それに蝶々と蛾がいっしょになっているのはなぜですか?」
オレは何が何だか分からなくなってさらに続けた。
「あのずっと疑問に思っていたことがありまして……。ついでに聞いていいですか?」
「なんでしょう?」
「本殿の前にもあったこの大きな丸い鏡は何ですか?」
「カガミですか……」
巫女さんはそう言ったきり、黙ってしまった。
旺盛に葉を食べ続ける幼虫たちを見ていると、自分が成長するためとはいえ、生命力の強さを感じるのだった。