神様の逃避行
朝、新聞を取りに玄関ドアを開けると、こぶしくらいの石がブロック塀の上に置かれていた。
他人の家のブロック塀に石なんか置いたやつは誰だと思いながら近づくと、それはただの石ではなく、小形の石像のようだった。
手に取ってみると近くの富津倉神社の狛犬にそっくりだ。大きさは小さいが獅子頭のような丸いギョロ目とたてがみ、大きく開いた口で参拝客を睨んで立っている狛犬だった。
なぜその狛犬の石像がわが家に置かれていたのか。理由は分からないが放っておくわけにもいかず、私は家の中に持って入ることにした。
すると、テーブルに置いた石像からではないどこからか声が聞こえた。家族は主人である私を残して旅行に行っているので、誰も声を発する者などいないはずだ。
――見つけてくれるのを早朝から待っていた富津倉神社の狛犬です。実はうちの神様が突然いなくなりまして、氏子代表のあなたにご相談に伺ったのです――
確かに私は富津倉神社の氏子代表をやっているが、だからといってそこの狛犬が声を掛けてくるなんてことがあるものか。少なくとも今までにはなかった。私が信じられない気持ちでいると、
――狛犬はこう見えて一応〈霊獣〉ですので、こうしてあなたに意思が伝えられるのです。あと一週間でお祭りが始まります。それまでにもし神様が戻られないと、お神輿も出せなくなり、担ぎ手の皆さんに申し開きができません。
もっとも神様の姿は人間には見えないので、最悪乗っていることにしてお神輿を出してもいいのですが……――
私は目の前の石像の顔形からして富津倉神社の狛犬に間違いないと納得できたので、こちらからも問い返してみようと思った。
「狛犬さん、なんでそんなことになったのですか? 行き先に心当たりはないのですか?」
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