第一章
神様の願い事
朝まだ早い富津倉(ふづくら)神社の鳥居を二人の青年がくぐっていた。長い石畳の参道の先に拝殿の屋根が見えた。
「ところで、おとといの就職説明会は行ったのか?」
「ああ、気が乗らない会社だったが、いまだに内定ゼロの身としては数を打たないとな」
「そういうおれも一社内定が取り消しになった」
「十社近く内定をもらってるお前でもショックは大きいか」
二人は場には似つかわしくないダークなスーツ姿で手と口を清めた。
「上位志望の会社だったからな。そのあと就職セミナーにも寄ったんだろ。そっちはど
うだった?」
「採用面接には役立ちそうだ。面接だけの会社ならいけるかも、と思ったよ」
「面接官のどんな質問にも答えられる自信がついたってことか?」
「いや、面接官に一方的に質問されるのでなく、こちらから聞いてほしい話に持ってく
のが大切らしい」
「なんか、簡単ではなさそうだが……」
「まあな。でも腹は決まった。おれは面接重視の会社でいく」
「そうか。おれは最後の本命にチャレンジするつもりだ」
手を拭きながら一人が言った。
「それより、E社のインターンシップはどんな感じだった?」
「期間中はほとんどお客さん扱いだったな。人手が足らないのに仕事は与えられず奇妙だった」
「じゃあ、三週間は無駄だったというわけか」
「いや、そうともいえない。会社の雰囲気は何となく分かった。でも実際に入社したらかなりこき使われそうだ」
ふーん、やはりそうなるかと納得して、さらに続けた。