【前回の記事を読む】2人の青年が就職祈願に参拝した神社には、神様の事務室がある!? 1人で留守番中の神様は文句ばかりで…

第一章

神様の願い事

「ここは人気のパワースポットだから、最近は参拝客が増えて一人じゃ処理が無理なことは承知のくせに……」

さっきから、ブツブツ言ってるこの神様。この神社に雇われたのは約一年前、小さい社だがやっと神社会に慣れ、神世間のしくみや状況が分かってきた頃といったところである。

神様は苛立ちながら独り言を声にした。

「神社でお賽銭やお守り、護符などに使った金額、それに祈願別の一覧表は、社務所の人間がとりあえず作ってくる。ここの神主や他の人間はこれでおよそ願い事が叶うと思っているが、実はそれだけでは簡単に決められないのだ。

神様は、そこに至る努力のプロセスを評価して、ここで成就させるべきものか、叶えず先送りにするかを議論する。その資料を自分が作成しなければならない。

参拝者がどれくらい頑張ったかを評価するため、過去一年間の行動や参拝回数を一件ずつ最新鋭のモニタリングシステムでプレイバックする。これを文字に起こすのに時間と労力がかかる。

絵馬の大小も考慮に入れ、『A』から『E』の五段階評価にしてまとめるというわけだけど、これが面倒臭いな、もう……」

そこへ、土日分の一覧表を持って神主が入ってきた。神前に一覧表を置いて、見えない神様に丁寧におじぎをすると出て行った。

「おいおい、今はパソコンで表計算できるからそっちは簡単でいいよ。しかし、一か月以内の即成就は『A』、その後の半年までの成就は『B』、一年間の経過観察は『C』、さらには継続審議や不成就の『D』、『E』と、大方のマニュアルはあるが、どれにするかの判断基準は決められていないんだ。そこが微妙に難しいんだ」

明日は、神無月の行事が終わって、出雲から神様たちが帰ってくるから、今日中に五段階評価をつけておかなくてはならない。昨日までも忙しかったが、今日は徹夜になるかもしれないと思った。

「人間たちは、神様がいつ『百件会議』を開いているか知らないから仕方がないが、明日開催の会合の資料を今頃持ってくるやつがあるかっての。大方終わっていた作業が一気に増えたじゃないか。それに、大体こんな大事なことを一番下っ端のおれが決めてしまっていいのか、本当に」 持って行き場のない怒りを、新米の神様は天上にぶつけた。

そして一つの決断をした。

「今回はもう時間がないから一年近く頑張った者と絵馬の大を奉納した者の評価は一律『A』ということにしよう。行動モニターは早送りで見て、と……」

人間には聞こえない言葉を、またつぶやいた。

それにしても、大事なご利益をこんないい加減な処理で決めていいのか。焦りとともに良心の呵責にも苛まれていた。

「毎月の案件は百件と決まっているから一覧表から上位をピックアップして、あと数件加えて、願意別に分けて、っと」

一人残された神様は、がむしゃらにかつ確実に、資料を作成する作業を続け、日付が変わる直前に終えた。