「いいとも、祈っただけではちょっと不安が残る。そういうことならおれも安心する」

絵馬は大きさが大小の二種類あったが、二人はこの際だからと迷いなく奮発して大きい方の絵馬を取り、料金を箱に入れた。最初に就職祈願とサインペンで大きく書いて、それぞれが希望する会社に受かりたいと願い事を書いた。

そして、自分の絵馬を少し離れた納所に結んだ。あとから風で落ちないように、きつく念入りに結んだ。

「さあ、これでやるべきことはすべてやった」

「ああ、気持ちは落ち着いた。あとは運を天に任せるだけだ」

二人はそう言って、満足そうな笑みを浮かべた。お互いの試験準備に打ち込んだ日々を知るゆえの感慨だった。

二人はいざ試験会場へとの思いを胸に、駅に向かうことにした。鳥居のところで一旦足を止め、振り返って軽く拝殿に一礼して、参道を静かに帰っていった。

ところ変わって、ここはつい先ほど二人の青年が参拝した拝殿奥の扉の向こう、我々には見えない神様の事務室。

「やれやれ、神様たちはみんな出雲に出張してしまって、おれ一人で留守番というのも楽じゃないよ」

誰もいない部屋で、一人の神様が吐き出すように言った。

「まったくもう。いくら神無月だからって、新米の自分だけ残して行ってしまうことはないよなぁ。それに、皆が戻ってくる前に、日々の参拝客の願い事をまとめた『願い事成就決定会合』の資料を作成しておくように、だってさ」

人間社会のどこかで聞いたことがあるような会議名である。ここの神様たちは毎月開かれるこの会議を通称「百件会議」と呼んでいる。

 

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