「そこにいる先輩の話は聞けたのか?」

「内情をいろいろ教えてくれて悪くない印象だった。それから試験のアドバイスもくれた。そうそう、この神社に誘ったのもその先輩の勧めからさ」

「そういうことだったな」

「それにしても、もう少しだけ学生を続けていたいもんだな」

「そのとおりだ。就活も楽じゃないが……」

二人はハンカチをポケットにしまうと、神妙な面持ちで拝殿の前に立った。神社など来たことがない二人は参拝の作法も先輩から教わっていて、誘った友人に事前に伝えていた。

どちらからともなく小銭を賽銭箱に投げ入れ、ほぼ同時に二礼、二拍手、一礼をした。二人はそれぞれ心の中で、

――どうか、トンデモ・ホームに受かりますように――

――ふづくら信用金庫の面接がうまくいきますように――

と深めに頭を下げ、長めに姿勢を保ってから上体を起こした。

「いよいよ、今日だな」

「ああ、お互い頑張らなきゃな。でなければ、これまでの苦労が水の泡になる。卒業したら、ちゃんとした職に就く。これがなかなか難しい」

二人は互いの顔を見て励ますように言った。

今日は奇しくも二人が志望する会社の就職試験日であった。会場に行く前に、早めに起きて最後の祈願に参拝し、その足で試験会場に行く予定である。

ふと横を見ると、まだ閉まっている社務所の前に、料金箱と何も書いてない絵馬が置いてあるのを見つけた。

「それからもう一つ、先輩の話を思い出した。ここの神社の絵馬はとてもご利益があるらしい。時間はまだあるからついでに絵馬を奉納していかないか」