お殿さまと追い腹切った家臣たちの一周忌法要が終わった。今もふっとお殿さまの気配を感じることがある。声を聞いたような気がしてあたりを見回す。お殿さまの魂魄がお城を片倉領を、見守ってくださっているにちがいない。

大坂冬の陣そして夏の陣のころのお殿さまが偲ばれてならない。早馬が到着するたびに、そして八方に放った手のものから知らせが届くたびに、お殿さまは不機嫌になられたものだった。息子の重綱さまへのご不満だった。

病の床から身を起こされ届いた書状に目を落とされては、一人眉根をお寄せになられたものだった。周りに誰もひとがいないことを確かめられると、吐き捨てるように言われるのだ。

「我がせがれながら愛想がつきるわ! 首をとるだけが能ではないっ! 何が勇猛果敢じゃ、何が縦横無尽の活躍じゃ。敵の真っただ中に先陣きって斬り込むとは! 何たるたわけ……。そもそも将の器ではないということよ」

「……切り込み隊の先陣を……」

「事実だろう。あの者たちは話を面白おかしく膨らませるのを、わしが好まぬことを承知しているはずじゃ。せがれめが、得意満面に書き送ってきたものとも一致する」

いかにも重綱さまらしい、と思わず口元が緩みそうになって歯を食いしばる。赫々たる戦果を書状にしたため、それでかえって父上の不興を買うことになるとは、想像もできなかったのだ。

なにしろ片倉隊は伊達軍の先鉾(せんぽう)を受け賜わったのである。あの重綱さまのことだから、その栄誉に奮起しないわけがない。父親の名を恥ずかしめるような真似はできない、いや父親を凌ぐ働きぶりを天下に知ろしめす千載一遇の機会と、並々ならぬ闘志を燃やしたはず。大きな目をむき口を引き結んだお顔が見えるようだ。