第二章 片倉小十郎重綱の使命
四
慶長六(一六〇一)年、伊達さまは景頼が丹精を込めた岩出山城をあっさりと捨てられて、仙台に居城を移された。初めからその計画だったのであろう。
「太閤殿下は小田原参陣しなかった奥州の面々を討伐なさったが、大崎にしても葛西にしても、参陣がかなわなかったのでござりすよ。北条に味方したわけでもなく、太閤殿下に盾突いて一戦交える覚悟があるわけでもない。家中の内紛でそれどころでなかったというのが、正直のところだったでしょう。参陣に向けて家中の心を一つにまとめること能わず、ついに滅び申しました」
あんちゃんは儂にそれとなく注意を促すつもりなのかも知れない。家中の人心掌握、領民の収攬を心掛けねばならぬ。儂の武功の時代は終わったのだ。太閤殿下の奥州征伐で、北の果てのまつろわぬ民は消えた。そしてこのたびの戦で天下は平定されて徳川の世となった。
「上さまは慶長の大津波の後始末に難渋しておられまするが、それも含めて戦の後の世をどうするか、息の長い大仕事でござりまする。時代に合うも合わぬも言うておられませぬ」
あんちゃんと顔を見合わせ、目の辺りだけでうなずき合った。
「為すべきことを為すしかありませぬ。謙虚におのれを省みることができますれば、自ずと時代と息を合わせることがかなうのではないかと、考えまするがいかがでしょうか」
「時代と息を合わせる……」
屋代は思いあがっておのれを省みることができなかったのだ、とあんちゃんは言った。そんな人物にどうして時代の求めるものが解ろうか、と儂に説教する気満々に言い放った。
「ところで、あんちゃん」
話の流れを変えねばならぬ。儂は説教のつづきをさえぎった。
「話が変わるが、陸奥守さまの花押だが、せきれいの目、儂がお受けした書状には穴がうがたれていなかったぞ」
あんちゃんは目を白黒させて黙った。