四.電気伝導度
数日後の放課後、役場の館内農林水産課長との約束を取り付けた、大河、出丸、川原の三人は、ニシベツ役場に向かった。農林水産課の窓口に行くと、職員に大河は声をかけた。
「すいませんが、館内課長はおられますか」
「お会いすることを約束しております、ニシベツ高校水産科四年の大河と言います」
職員は、ああニシベツ高校の生徒さんね。今、課長を呼んどくわ、ちょっと待っといて、と言って、奥の方に向かった。
「よぉ、君たちか。待っとったぞ」
気さくな、そして野太い声と共に、館内課長が姿を現した。大河たちは一礼した。
「今どき、学校であれだけの騒ぎを起こすとは大したもんだ。豪気だなぁ」
まぁ入りたまえ、と館内課長は三人を小さな会議室に案内した。会議室には先客がいた。
「やぁ、君たちがニシベツ実業高校の水産クラブの面々か」
先客は、続けて言った。
「うちの農協としてもね、このままでいいとは思っていないんだ」
農協? 明らかに大河たち三人は顔を曇らせた。やや険悪な雰囲気になりかけたときに、館内課長はすかさず次のことを言った。
「君たちが面食らうのはよく分かる。だけどな。敵の情報を知らずにどうやって闘うんだい? この人は、ニシベツ農協の白鳥営農指導課長だ。今の酪農のやり方に疑問を持っている数少ない酪農関係者だ。営農指導課長だけあって、この町の酪農については大方把握している。情報を聞いておかない手はないんじゃないかい?」
館内課長のこの言葉に、大河、川原、出丸の三人は、『酪農』や『農協』というキーワードが出てくるだけで、気分を悪くしてしまう自分たちの心の狭さを感じないわけにはいかなかった。この人たちはトータルで考えようとしている。それに対して自分たちは自分たちのことに目がくらんでいた。そのことを痛切に感じる館内課長と白鳥課長との出会いだった。
戸惑いつつも、型通りの挨拶を済ますと、大河は切り出した。
「ニジベツふ化場の久保田所長から、川の周りに酪農家が多くて牛が多いほど、川は汚れる可能性が高いことを聞きました」
「それを確かめるのに、川の水の電気伝導度を測ることを提案されました」川原が続けて説明する。「ポータブルの電気伝導度計は、富阪先生から使用の許可をもらいました」
そこで出丸は、うーんと唸るように、
「しかし、ニシベツ川のどこを調査したらよいか、それが俺らだけでは見当がつきません」
と困ったように言った。