「そうそう、そこで農協の白鳥課長を呼んだんだ」
と、ニシベツ町全図の図面を広げながら館内課長は続けた。
「ニシベツ川には、大きく分けても、本流とキヨマルベツ川、測量川、シカルンナイ川、ホンベツ川という四つの支流がある」
「四つの支流と、本流の上流と中流、下流、この七カ所は最低限必要だなぁ」
「で、それぞれの支流へ水が流れていく土地のまとまりを『流域』と言う」
と言いながら、館内課長は、色鉛筆でそれぞれの支流の流域をざっと色分けした。ニシベツ川の本流と支流、合わせて七つの流域が図面に色分けされた。川原は、膝をぽんっと打って、納得したようにこう言った。
「そうすると、それぞれの流域の一番下あたりを、調査ポイントにすべきですね」
しかし、出丸はやはりうーんと唸りながらこう言う。
「調査ポイントは分かったけども、どうやって酪農と水質との関連を証明するか、それが問題になるな」
そんな生徒たちの様子を見ながら、館内は白鳥に目を向ける。
「白鳥課長。ヒントがあるよな」
白鳥はてきぱきと、自分の考えていたことを話していく。
「この図面に、酪農家の名前がすべて載っているだろう」
「この酪農家一軒一軒の乳牛の飼養頭数は、農協で把握している」
「だから、農協のデータを使えば、それぞれの流域に乳牛が何頭いるか、計算することができる」
ここまで白鳥課長は言うと、少し考えてからこう言った。
「酪農家一軒一軒の情報は、個人情報だからそのまま渡すわけにはいかない。しかし、名前を伏せて渡すことはできる」
「お願いできますか」
と大河は頭を下げた。出丸と川原もそれに続いた。館内課長は図面を渡してくれた。白鳥課長は数日中にニシベツ実業高校にデータを持っていくことを約束してくれた。