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聴覚を操ることができる音喪力異能力者、大仏聡(おさらぎさとる)三九歳 建設業

ただ、うるさいといっても耐えられないほどでもなく、みんなヘッドホンもせずに普通に仕事をしているわけで、やはり大仏の能力が特別に役に立つというほどのものでもない。うるさいと思って耳をふさいでいた時に、たまたま資材がクレーンで空中を移動していることもあり、作業員から

「危ない!」

と言われても聞こえずに危険な目にあうこともあった。やはり、油断のできない危険な職場なのであり、大仏の能力が「あだ」となることもあった。

こうして、自分の能力をフルに活かせる術の分からないままに、異能クラブに入会しようとしたのである。

ただ、このクラブに来てから、神谷の話を聞き、自分も使えると思った。カミさんが怒っている時や、子供がうるさい時に、耳をふさいでしのぐのである。ただ、神谷とは違い、気を失っているわけではないので、怒っているカミさんの顔を見てつい笑い顔になり、さらなる怒りを買うことがあり、カミさんに対する時だけは、注意して、できるだけ神妙な顔を作るようにしたのである。

これまでは、ただ叱られっぱなしというわけにはいかず、思わず言い訳や反論をしてしまい、またカミさんの怒りの火に油を注ぐ結果となることもあったが、聞こえない以上、言い訳も反論もなくなった。そうしたら、実に家庭内が平和になり、初めて、自分の能力を有り難いと思った大仏であった。

ただ、大仏の能力が、後に意外なところで役に立つことになるのであるが、この時はまだ知らない大仏であった。みんな、大仏の話を聞き、これも異議なく入会が決まった。