第一章  ギャッパーたち

(二)天地紗津季

紗津季としては、理事長としての仕事よりも、看護師としての仕事の方が人の役に立っているという実感もあり、やりがいも感じていた。

そこに自分を頼っているとのラブコールを受けては、もう看護師として行くしかなかった。紗津季の頭には、救助要請を受けたら、仕事中でも変身して駆けつけるヒーローの姿しかなかったのである。

気がつくと、紗津季はいきなり病室に行こうとして立ち上がっていた。

他の理事から、「理事長、どうされました?」と聞かれ、はっと我に返った。

「ちょっと急用ができたので、本日はこれまでにさせていただきます」とだけ言い残し、その場を離れた。

そして、病院内のトイレに入って、素早くナースの制服に着替えた。

ここで、なぜ紗津季がナース服を持っていたのかの疑問がわくが、やはり紗津季にとっては看護師が第一の仕事であり、理事長として病院に行くときにも、その鞄の中にはナース服が入っていた。やはり紗津季の気概の源泉は看護師なのである。

ナース服に着替えた紗津季は、上げていた髪をおろした上でうしろでひっつめてナースの詰め所に向かった。

その姿は、新聞記者から眼鏡とスーツを取り去って変身するスーパーヒーローを髣髴とさせるものであった。