三.乱闘

空に積雲がいくつも浮かんでいる。

四月下旬ともなると、根釧原野にもゆったりとした南風が吹く日が何日かある。

そんなのどかな昼休み、ちょっとした騒ぎが起きようとしていた。

ニシベツ実業高校の玄関前の中庭で、大河と川原は、水産科の四年生数名と一緒に、グラウンドから演台を持ってきている。

その演台を、芝生の真ん中に置いた。

出丸は拡声器を準備した。

大河は、拡声器を右手につかみ、やおら演台に仁王立ちになると、グッとにらみつけるように水産科棟を背に南側の酪農科棟と向き合った。

その様子を見た水産科の三年生と四年生たちは、わらわらと大河の周りに集まった。

二年生と一年生は、水産科棟三階の無線実習室や航海実習室、水産実験室から顔を出している。

出丸は三階の二年生と一年生に、合図を送った。

その途端、いくつもの垂れ幕が上から流れるように開いた。

「あっ、やべぇ切れた!」

残念ながら何枚かの垂れ幕は途中で切れて、地面へとはらはらと落ちてしまった。

『酪農による水産業破壊、粉砕!』

『草地開発、絶対阻止!』

『ふん尿の垂れ流しが、川と海を殺す!』

垂れ幕には、過激な、しかし漁師の息子たちとしては切実な言葉が並んだ。水産科生徒の誰もが、先日のサケ稚魚全滅の報を聞き、怒りを感じないわけにはいかなかったのだ。

驚いたのは、酪農科の生徒たちである、ざわざわと一階廊下の窓から中庭の様子を眺めている。

酪農科三年の内燃は、これはやばいことになるぞ、と思いながら玄関の方へ向かった。

農業クラブ会長で酪農科四年の森本は、廊下の窓から水産クラブ会長である大河をにらみつけた。

中庭を挟んで、水産科と酪農科の間の空気が、ピーンと張りつめた。