三.乱闘

教室で、朝の気象観測のデータをまとめていた山川のもとに、同じ酪農科二年の佐藤と高橋が外の騒ぎのことを興奮気味に伝えに来た。

「おい! 中庭で面白いことが起きているぞ」

「水産科の連中と大喧嘩だ!」

さっそく酪農科棟の廊下の窓から三人は顔を出した。

「おおっ。やっとるやっとる」

「俺も出ていこうか」と佐藤。柔道部だけあって血気にはやるのだ。

「馬鹿。やめとけ。相手は三年と四年だ。あとがやばいぜ」

高橋はカメラを構えて連写しながら佐藤を止めた。

山川は、なぜここまで先輩たちが熱くなるのか、それをぐるぐると考えていた。

この頃には、ほぼ全校生徒が中庭の騒ぎを見ようと集まってきていた。家庭クラブ執行部で生活科四年の吉崎と三年の三木の姿も玄関前にあった。

吉崎はため息交じりに、

「またやっているわね。本当に男どもはどうしてこんなに馬鹿なのかしら」と言うと、

「まぁ、つける薬はないですよね」と三木が答える。

すぐ熱くなる男子に比べて女子は冷静である。あきれて事の次第を眺めている。眺めているのはこのバカ騒ぎだけではない。すぐ目の前に仁王立ちになっている中原校長がどう動くか、じっと見つめていた。

「またやってる。ちょっと怖いわ」と生活科二年の伊藤は、こわごわ眺めている。

「二年もここまで熱くならなければいいんだけど」

高島は目の前の惨状を見渡しながら、やはり不安そうに、

「でも、きっと来年は同じになるわね。もめごとの原因がはっきりしない限り」と答える。

中渡千尋は、きゅっと口を結び、シサㇺ(和人)たちのバカ騒ぎを見つめていた。

(喧嘩ばかりしててもしょうがない)

(こういうときは、チャランケ(とことん話し合うこと)をしなければ)