四.電気伝導度
農業クラブ会長である森本に、「証拠を見つけてやる」と宣言した以上、やってやると、水産クラブ会長である大河は早速動き出した。
五月上旬のある晴れた土曜日、大河、川原、出丸の三人は、バイクを西へ向かって飛ばしていた。向かう先はニシベツ実業高校から七〇km上流の、ニシベツ川源流部に位置するニシベツ漁業協同組合のニジベツふ化場である。
道すがらの風景は大草原地帯である。草地開発によって、森林地帯から大草原に変わってしまったのだ。
草地には、トラクターが忙しく走り回っているのが見える。
いずれもマニュアスプレッダーをけん引して堆厩肥を撒くか、スラリータンクをけん引してスラリー(液状厩肥)を撒くか、ブロードキャスターを装着して化学肥料を撒いている。
大河は、その様子に眉をひそめた。
(この酪農家の行為が、川と海を殺していくんだよな)
そう、大河たちはこれを何とかするために、今バイクを走らせている。
ニジベツふ化場に近づくと、それまでの大草原の中の道から、急に森林地帯の道へと変わる。
根釧原野の原風景ともいえるカシワやニレ、ドロノキの森林地帯をしばらく進むと、ニシベツ川にバイカモがいっぱいに広がっている橋に差しかかる。
ここが、ニシベツ岳とカルデラ湖であるマシュウ湖のふもとのニシベツ川源流部である。
ニジベツふ化場の建物群が、左右に広がっている。
大河や川原、出丸はこの風景を見るとほっとする。周りの木々は新緑になりつつあって、山から吹き下ろす風は少し冷たいがさわやかだ。何よりも、マシュウ湖の伏流水であるニシベツ川源流部の水は、どこまでも清らかで澄んだ光を放っている。
ニジベツふ化場の事務所前で、三人はバイクを降りた。
所長の久保田が出迎えに来てくれている。
「久保田さん、世話になります」
大河たちは久保田に一礼した。久保田は笑顔で答える。
「やぁ、おはよう。この間はずいぶんと派手な立ち回りだったそうだね」
「町中のうわさになっているよね」
久保田の笑顔に少しほっとしながら、大河はきっぱりと言う。
「何かしないと、手遅れになってしまうと、俺たちは信じています」
「だから、うわさになることは恐れません」
「そうそう、だからここに来たんだよね。早速本題に入ろうか」
久保田はそう言うと、まあ入りなさいと、事務所の小さな実験室に三人を案内した。