エッセイ 人生論 短歌 生き方 2020.07.09 短歌集「生きる」より三首 短歌集 生きる 【第2回】 田中 祐子 心かが折れてしまいそうなとき、 寄り添い支えあう、心の歌。 原爆の悲劇、夫との死別、複数の病との闘い……。時代に翻弄されながらも困難と向き合った歌人が、自らの経験を生きる糧に代え、詠みあげる709首。平和で豊かな未来を願い、いまを生きる人に伝えたいメッセージを、連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 二分咲きの桜の下を傘さして行く人のあり小ぬか雨降る 満開の桜の枝に薄切りのレモンの如き月かかりいる 満開のさくらの下に一人佇ち散りゆくさまを息止めてみる
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『人生の切り売り』 【第5回】 亀山 真一 コンプレックスである大火傷の痕。悪魔は「大事に取っておいたんだ?」と冷たく言った 「この男が売っ払ったっていう元彼か」不躾(ぶしつけ)な呟きに、反射的に言葉を被せる。「どうして戻ってきたの?」「君に頼まれたのは『ちょっと出てって』とそれだけだから、いつこの部屋に現れようと僕の勝手だろう」悪魔は掛橋くんから視線を逸らすことなく答えた。その声音はやっぱり面白がっている。「そもそも君の言葉に従う義務も、僕にはないんだし」「じゃあ最初からそう言ってよ」きちんと対応を考えられていれば、…