花と木沓

四月十九日 蜜蜂の目玉で

蜜蜂の目だまで

青い あおい空を見ていたら

牧場のむこうの三本のポプラが

ほうきを逆さまにして

いま出かかった雲を

はき散らかすのが見えた。

ポプラは雲が嫌いなのだ。

ポプラは青い 青い空が好きなのだ。

四月二十日 

“なつかしい父上様”

今、まきばはわき立つような春です。

ふる里は海の町

つりざおとスケッチブックを持って父上と

毎日海え行きました。

海は、のりのオニギリの匂い。

潮風はばさばさと

勝手気ままに私の髪をかきまわし

角貝は、口笛吹いて

カニは何やら感傷たっぷりの身振りで

岩の下から上目づかいに見上げたりします。

砂山のむこうに汽車の通らない赤さびた線路があって

今頃はそこら一面にタンポポがばらまいたように咲いて

いるのです。

波打ちぎわは

レエスのふちかざり。

ああ本当に雪国の

春は嬉しい。

春はレエスのふちかざり。