花と木沓

三月九日

じゃがいもの皮むきながらガブリエラ様は毎日一つづつ聖人伝を私に語る。

今日は、はなやかな奇蹟のお話。

「その時…スルスル( 皮むく音)

天から…スルスル

バラの花が……スルスル

降って来ました……ストン」(むけたおいもをボールに落す)

外は春の雪。

……

……

スル…

スルスル…

母上様

もう十日経ちました。

そして私はこの頃熱が、すっかりおさまってしまったので、今日から「じゃがいもの皮むき」の手伝いをすることになりました。

赤いレンガの台所ですい事係のガブリエラ様と二人でスルスルとじゃがいもをむくのです。

ドイツ風な生活をしているここではじゃがいもは大切な主食なのです。

ある日

ルチア院長様が、私達の食堂に入って来られて、もてあました顔をした少女達におっしゃいました。

「アガタガタ(あなた方) ビョウキトタタカイマス。

……

……

スル…

スルスル…

ソレニワ

コ、メ、ヨワイ

イモ(・・)ツヨイ。イモ(・・)ワドイツコクミンノニギリコブシ(・・・・・・)!」

…おお

何となく消化の悪そうな…しいッ…

ところでお母さま、マリア院は台所を境として、こちらが私のような病気の少女達の病室や教室。それから、村の信者も時々おとずれる礼拜堂があります。台所からあちらは、“修院” と呼ばれる修道女様方のお住い。

重いとびらのむこうは神様の他は、ちらとのぞく事さえ出来ません。

ですから国境線のようなこの台所で、修道女様と、高校二年のマルキスト気取りの娘とがイ、モ、の皮をむくと云うのは、とても

とても

お母さま

ドラマティックな情景だとお思いになりませんか。