(弐)
自在に意識を操作することができる気喪力異能力者、神谷仁(かみやじん)三六歳会社員
伊能が、自分に続く発言を促し、次に話し出したのは、神谷仁であった。
「俺の能力は、いつでも、少しだけ気を失うことができるというものです。ただ、時間はほんの一、二秒だけですが。それでも、大人になるに従ってだんだんと延びるようになってきて最近はもう少しは気を失うことができるようになったように思います」
みんな、それが果たして能力といえるのかどうか分からず、ポカンとしていた。神谷は自分の経験を話し出した。
神谷がまだ小学校の時、気を失うことが時々あった。それは突然に起こり、ほんの一、二秒だけなので、自分でも気づくことがなかった。それが分かるようになったのは、先生に怒られていた時にそんなことが起こるようになったからである。もともとぼーっとしていることの多い神谷であり、真剣に授業を聞いていないと先生に怒られることがあった。その怒られている、正にその時に気を失うこともあり、そうすると、先生は、
「神谷は、怒られているのに、まじめに人の話を聞いていない。反省がない」
と余計に怒ってくるのである。気を失っているのだから、話が聞こえるはずもないし、話が途切れるから、話の流れも分からないので、実際にも何で怒られているのか分からなくなることもしばしばであった。ただ、気を失うといっても、一、二秒なので、倒れることまではない。でもふらついているようにはなるので、居眠りをしているように見えるらしく、この態度が先生の怒りに余計に火を付けることになる。
ところがだんだんと、友達と楽しく話をしている時にも、これは起こるようになる。友達も、何度も話したことを聞き返されるので、最初は、耳が悪いのかと思っていたようだが、普通の時には何の異常もないので耳の問題ではないことが分かり、結局、自分の話に興味がないのではとか、もっとひどく、馬鹿にされているのではないかなどと思うようになり、友達もだんだんと遠ざかるようになってしまうのである。
こうして、友達がだんだんといなくなり、一人の世界に閉じこもるようになると、今度は、人との接触が煩わしくなってくる。そうしているうちに、気を失うことが自分からできるようになってくるのである。しかも、その時間がほんの少しずつ長くなってきているようなのである。
まただんだんと筋力もついてきて、気を失っても、体勢を保つことができるようになり、気を失っても倒れることがないので、目をつぶって気を失えば、外の世界との交わりを断つことができるのである。ただ、その時間が短いためすぐに実世界に引き戻され、その間に相手の怒りが増幅されることもあり、いきなり増幅された罵声を正面から浴びることになり、それで本当に気を失うこともあった。