(壱)
電話の相手が見える百里眼異能力者、伊能敬(いのうたかし)五二歳、夜街新聞社主催
ということで、伊能はその次の週の月曜日の夜、その女性のマンションを訪れた。その女性も仕事柄、お客の男性を連れてきて、飲むこともあるようで、伊能が来てもあまり気にする様子もない。その電話が掛かってくるまで、気を紛らわそうと、お酒を飲みながら談笑していると、夜一二時を少し過ぎたころ、本当に、電話が掛かってきた。
早速、その女性が出て、
「もしもし」
と言うと、やはり、何の返答もない。そこで、伊能が電話を変わると、相手は伊能に対して、
「はあ、はあ」
と荒い息づかいを浴びせてきた。伊能は気持ち悪くなりながらも、集中して耳を傾けると、電話の先の相手の状態がだんだんと見えてきた。何と、その相手は、若い女性ではないか。しかも、妙にセクシーな薄着である。伊能は、脂ぎった中年のオヤジを想像していたため、そのギャップに驚いて頭が混乱していたが、とにかくこれを止めさせるべく、言い放った。
「あんた、女の子なのに、そんな恥ずかしい格好して、一体、何やってるんだい」
相手は、突然におじさんの声で叱られて、しかもどういうわけか、自分の姿が見られていると思い、焦って、すぐに電話を切った。それ以来、その電話はなくなった。
後でその相談者の女性に確認したところ、相手の女性は、彼氏が二股を掛けていた別の女性であったとのこと。最初の電話番号がそれで、その彼氏が問い詰めたら白状したという。その女性によれば、二股の相手にいじわるをして別れさせようとしたとのことであったが、自分のことがばれたと思い、反省しているとのことであった。
伊能は、その女性から感謝されたこともうれしかったが、何より、自分の能力が初めて人の役に立ったことがうれしかった。これが、異能クラブ立ち上げの大きな推進力となったことは確かであった。