城間は予備校生である。雄太と同じ身分だ。この当時は大学への進学率は半数が現役入学、あとの半数が一浪以上の浪人(多くの大学希望者は予備校通いの不安定者であった)で占められていた。家庭に余裕のない学生は大学への進学は一度のチャンスしかない。
頭の良い若者は東大や京大にチャレンジし、狂喜を我がもの顔にする。しかし狭き門だから希望が叶うとは限らない。それでも未練がある者は名のある国立大へと進む。このような類の若者で、余裕のある家庭の子供は志望校に落ちても、次年度に同じ志望校を受験する。
〈今度こそ合格してやるぞ〉と意気込む。それでも落ちると、滑り止め校として私立の一流校といわれる慶応、早稲田へ掛け持ち受験し、試験に合格する。
それでも失敗すると二浪して、頑張り続けて最後に落ち着くところは自尊心が傷つけられないですむ名の通った私立大学だ。さすがに三浪まで頑張る子は少ない。浪人を許す家庭は恵まれていると言っても過言ではない。今の時代、一浪して一流大学を目指す者はよほど家庭的に恵まれているに違いない。
雄太は、両親に拝み倒して大学入学へのチャレンジをお願いした。いわく「俺の人生をかけるから一回だけ大学受験のチャンスを与えてくれ。落ちたら、諦める」と平身低頭してお願いしていた。父親は「往生際の悪い奴だ。仕方がない一回だけチャンスを与えてやろう」と、母親の〈父さん雄太の言い分も親身になって聞いておくれ〉との助言に従って許可してくれた。
雄太は「しめた!」とばかり踊り上がって少しは勉強に身を入れた。しかし元来頭の良い家系ではなく、集中力に欠けるから、所詮先が見えていた。高校時代の学業の成績からは、身の程知らずの慶応大に挑戦したが見事に不合格となった。慶応大への入学は雄太の高校では、学年同期四百名程のうち、毎年四、五名程の入学者が定番だ。まして雄太の成績では、初めから無理というもの。