【前回の記事を読む】通学途中に勝負の申し込み!? 番長VS喧嘩負けなしの男、決戦の行方は…

第一章 上京

身体がぽかぽかと温かくなり、走る足取りも軽やかとなる。次は霞友会館か、この会館は著名な政治家が数多く事務所を構えている。この館もひっそりとまだ眠っている。この会館で十部程も捌けるので助かる。急に肩が軽くなる。「さあ! 雄太もう一息だ!」と両手で頬をたたき己を鼓舞する。

約一時間三十分で雄太は担当区域の新聞の配達を終えた。「やれやれだ」と自分自身に労いの声をかける。新聞配達店に戻ると朝食が待ち構えている。店主の奥さんが配達員用に朝食を用意してくれている。配達員の多くは学生である。奥さんが「配達ご苦労さん、さあ、冷めないうちに早くお食べ」と定番通りの口調で食事を勧める。

彼女にしてみれば生業の一環で仕事の一部に過ぎない。仕事(配達)から帰った解放感からか、自然に笑顔がはじける。隣にいる城間が口をもぐもぐと動かしながら「腹が減っているからどのオカズもうまいなあ」と雄太に話しかける。彼と雄太は一心同体と言っても過言ではない。

十人ほど川の字になって寝起きする寝室。隣の布団にもぐりこんでいる輩はこの城間だし、朝晩の食事場所も隣同士である。城間はいつも通り雄太に語りかける、「今日のシェンシェイ(先生)は定刻遵守で厳しいからかなわんよ」とご飯をかき込む。

城間に「ところで君はどこの出身だい?」と尋ねると「君の想像通り僕は沖縄の出身、県庁所在地の那覇出身だよ」と胸を張った。

「何がそんなに厳しいんだい?」と問いかけると「授業の始業前に出欠の点呼を厳守するんじゃ」と額に皺を寄せる。雄太が「適当にやればいいのになあ、融通の利かない先生だ」と同情すると喜ぶ。