入学試験に失敗した雄太は諦めきれず再度、両親に「アルバイトをしながら頑張るから一浪して、もう一度チャンスを与えてくれ!」と涙ながらに訴えた。ほどほどに成長してくれればと願っていたのだろう。両親は雄太の将来には期待していなかったようだ。
せいぜい穀潰しをせず、兄の迷惑にならないよう親父は祈っていて「以前に、一度大学受験に失敗したら、諦めると言ったではないか。雄太覚えているか? 忘れたとは言わせないぞ!」とは言った。
が、度重なるしつっこい願いに「仕方のない奴、懲りない奴」と面罵しながら、幾度にわたる涙ながらの雄太の訴えに閉口したのか、「自分自身の力、アルバイトで稼ぎながらでも大学入試へ挑戦するならやってみろ。ただし、親に迷惑をかけぬと誓えればな」とうんざりした仕種で、願いを聞き入れてくれた。
雄太の涙ながらの訴えは決して演技やスタンドプレイではなく、そのような素質が備わっているとも思われる、この若さだもの。
両親は先祖から受け継いだ山林をあちらこちらにかなり持っていた。今にして思えば東京ドーム一個分の広さはあったと思う。しかし雄太が大学を卒業するまでにこれらの山林の三分の一は売却されて消えてしまった。
両親もこれ程の財産の損失があろうとは思わなかったに違いない。しかも、将来が約束されるような人物になれる期待は持てなかった。近隣の農家でも先祖伝来の山林を手放して、一生に一度と言われる家の新築か改築をするのが定番であった。