中学生活開始

二 バレーボール部入部

「おいおい、うちのバレーボール部には幼稚部なんかないぞ。ネットの下を潜ったらアウチだからな、ブデチ。ボールと間違われて打たれないようにしろよ。まあこれでうちの女子バレーボール部の県大会出場は露と消えたな」

広大君の毒舌も冴えわたった。健一君、広大君、連君の三人とも百七十センチほどの大柄で、バスケット部から勧誘されていたのである。既に管弦楽部に入部した連君は、2つの部を掛け持ちするらしい。バレーボール部とバスケット部は体育館の中を分けて使っていたので、時間制で男女の練習時間はずれてはいるが、これから会う度にからかわれることになるなとエリはいささかむっとした。

月曜日の放課後、エリと可憐ちゃんが体育館に入っていくと、既に二十人以上の女子バレーボール部員が集まっていた。先輩たちは練習ウェアに着替えていたが、制服姿の一年生も四、五人が固まって待っていた。その内の二人はエリの顔見知りではなく、別の小学校から入学してきた子だった。

二、三分すると山本キャプテンがやって来た。山本キャプテンは、手をパンパンと鳴らして、

「もうすぐ沢井監督が見えるから、静かにして待っていてください」

と言いながら皆を見回した。間もなく沢井先生が体育館の戸口に姿を現し、山本キャプテンが皆に指示を出した。

「監督が見えました。一年生はこちらの右側に並んでください。上級生は左側に並んでください」

と言って、右と左を指し示した。

「沢井監督、よろしくお願いします」

山本キャプテンが、近づいてきた沢井先生に大きな声を出して頭を下げた。沢井先生は、ニコニコしながら、山本キャプテンに小さく頷いて、整列している部員の前に進んだ。

「皆さん、こんにちは。新学期が始まりましたね。みんな、春休みはどうだったですか。ゆっくり休めましたか。さて、今年の入部申込には十一人の一年生が申込んだと聞きました。今日は全員揃っていますか。揃っていますね。今日は、新入部員と先輩との挨拶会です。一人ずつ簡単に自己紹介をしてもらいます。

最初に私から自己紹介しておきます。沢井遥です。体育を受け持っています。バレーボール部の監督は二年前に久美さんのお父さんの山本監督から引き継ぎました。山本先生はもともとバレーボールの全国大会にも出られたことがあるベテランで、男女両方の監督をされていましたが、二年前に転勤されました。それを機に男女の監督を分けることになり、経験のない私が女子のバレーボール部の監督を受け持つことになりました。技術的な指導はできませんが、三年生には昨年県大会準優勝のメンバーもたくさん残っていますので、一年生はよく先輩の言うことを聞いて怪我の無いように頑張ってください。

では、キャプテンの山本さん、自己紹介をしてください。その後、一年生が並んでいる順に自己紹介をすることにしましょう」

沢井先生はそう言って山本キャプテンに場所を譲るために少し後に下がった。

「はい、わかりました。えっと、キャプテンの山本久美です。三年生です。家は稲毛海岸なので学校まで歩いて二十分ほどです。さて、明日から早速練習を始めます。集合時間とかは後で言います。よろしくお願いします」

山本キャプテンが挨拶した。