中学生活開始
一 いじめられっ子のあだ名(ブデチの命名)
始業式の翌朝エリがクラスに入ったところ、可憐ちゃんの周りに悪ガキグループの男子生徒が集まっていた。エリの耳にリーダー格の健一君の声が入ってきた。
「おい、エンピツ。エンピツはきちんとノートをとって、俺らに見せてくれなきゃな。頼むぜ」
どうやら可憐ちゃんにはエンピツというあだ名が付いたようである。細長くて髪をショートにしている可憐ちゃんが立っていると、確かにエンピツが立っているように見える。悪ガキはあだ名の付け方が上手いのである。しかし、可憐ちゃんはそれだけでもう涙ぐんでいる。
その週の金曜日、エリが登校すると、既に教室に来ていた木村美恵ちゃんが机に突っ伏している。美恵ちゃんの席はエリのすぐ前である。エリがその横顔を見ると、どうやら泣いているらしい。美恵ちゃんは、やはりエリと同じ小学校から中学に上がった子で、普段目立たない大人しい性格をしており、いつもみんなの後ろの方に控えていた。エリは美恵ちゃんの肩にそっと触った。
「美恵ちゃん、どうかしたの」
美恵ちゃんは、黙ったまま頭を左右に揺すって何事もなかったふりをしていた。少し離れたところから見ていた広大君が、
「おい、ブデチ、モグラは構われるのが嫌いなんだよ。眼もろくに見えないんだぜ。暗いところでじっとしているのが好きなのさ。モグラ、泣いてないで餌のミミズでも探しに行ったらどうだ」
と言った。広大君は美恵ちゃんに「もぐら」というあだ名をつけたようである。少し根暗で大人しい美恵ちゃんは、注目される場面が苦手なので、悪ガキはモグラを思いついたらしい。美恵ちゃんは、授業が始まってもしばらく突っ伏していた。