二 バレーボール部入部
翌週から浜村中学の部活の部員募集が始まった。ことに運動部は、めぼしい一年生に積極的なアプローチを始めていた。エリにはどこからも誘いの声が掛からなかったが、どこかの運動部に入りたいと思った。エリは、火曜日の一時限目の授業が終わった時、隣の席の可憐ちゃんに聞いてみた。
「可憐ちゃん、どこの部活に入るか決めたの」
「私? 実はバレーボール部に誘われてるの。私は背が高いから有望なんですって。本当は運動音痴なのでどうしようかと迷ってるの。神山さんはどうするの」
エリは逆に質問されてしまった。
「バレーボール部に誘われているなんて、すごいじゃないの。浜村中の女子バレーボールは去年の県大会で準優勝したんでしょ。可憐ちゃんならスター選手になれるわよ。私はどこからも誘われてはいないけど、どこかに入るつもりよ。運動部が良いなと思うの。どうせ私はレギュラーにはなれないから、運動部ならどこでもいいんだけど」
エリの答えには自分への口惜しさが滲んでいた。
「エリちゃん、それなら一緒にバレーボール部に入らない。私もレギュラーになれそうにないから、一緒に球拾いをしましょうよ」
可憐ちゃんはそう言ってニッと笑った。エリは、自分が山村さんを可憐ちゃんと呼んだことを忘れて、可憐ちゃんが自分のことを初めてエリちゃんと呼んでくれたことがうれしかった。
金曜日の放課後に体育館で各クラブの入部受付が行われた。エリは可憐ちゃんと連れ立ってバレーボール部の受付デスクに向かった。エリと可憐ちゃんが近づくと、
「あら、山村さん、決心がついたのね。今日来てくれなかったら、こちらから誘いに行こうと思ってたのよ。さあ、申込用紙に記入してください。最初はユニフォームもまとめて注文するので、サイズをどれにするか決めて印をつけてください」
バレー部の受付デスクに居た三人の上級生のうち、一番背の高い先輩がはきはきした口ぶりで可憐ちゃんに説明した。
「あのー、私も入りたいんですけど」
エリがおずおずと先輩を見上げて小さくつぶやいた。
「えっ」
先輩は一瞬妖怪でも見たような顔でエリを見つめた。
「あなたが? バレーボールをしたいの? ダンスのバレー部とは違うのよ」
先輩はそういってしばらくエリを見つめていたが、
「まあ仕方ないわね。入部希望者は全員受け入れる決まりだから。うーん、ユニフォームのサイズはMまでしかないから、自分で直してもらうしかないわね」
先輩は、少し投げやりにそう言って、あきらめ顔になり、他の二人の先輩の方を向いて肩をすくめた。二人の入部申込用紙の提出が済むと、先程説明していた先輩が、
「はい、これで二人とも浜村中のバレーボール部員です。おめでとう。私は、今年からキャプテンになった山本久美と言います。よろしくね。早速だけど、来週月曜日の放課後に新入部員の入部歓迎会をします。歓迎会と言ってもそれぞれの自己紹介をするだけなんだけど。四時から始めるから遅れないようにね。部室では狭いので、この体育館に集まります。いいわね」
と指示した。山本キャプテンの申し渡しに、二人は緊張して直立不動の姿勢で「はい」と答えてから、あわてて一緒に大きくお辞儀をした。エリと可憐ちゃんの二人が体育館を出ようとすると、丁度バスケット部の入部受付デスクからやってくる水島健一君、田代広大君、鈴木連君の三人と鉢合わせになった。
「よう、ブデチにエンピツ。お前らもどこかに入ったんか。残念だな、浜村中には文房具部はないからな。おまえらどこに入ったんか」
健一君があいかわらず小ばかにしたように聞いてきた。
「バレーボール部よ」
エリはまっすぐ健一君を見上げて答えた。