中学生活開始
三 いじめの本質
食事が済んで自室に戻ったエリは、壁に掛けた制服を改めてじっくり眺めた。右袖が左袖より短いことがはっきりと目立つ。何より袖口がちぎれてほつれているので、そこだけ見るとゴミ捨て場から拾ってきた服のようである。
(左袖も同じ長さに切って、切り口をちょっと折り込んでかがっておけば、見たところは私の腕の長さにピッタリになるわね。でも、そうやって平気な顔をして明日学校に行って良いのかしら。誰か知らないけれど、確実にいたずらした子はいるわけだし、その子は私が切られてみっともなくなった制服を着て困っているところを期待しているんじゃないかしら。
いたずらの成果を見てみたいと思うはずだわね。やはり、このまま着て行って、担任の伊藤愛理先生に泣きべそをかきながら訴えた方がいたずら者の期待に応えることになるだろうな。誰がどんな顔をして見ているかを確かめてみるのも面白そうね)
エリはそう思って、直さないで着ていくことに決めた。
翌朝、エリが朝食の席に着いてトーストに手を伸ばした途端、
「ちょっと、エリ、その袖はどうしたの。なぜそんなに千切れているの。直さなくちゃいけないわ」
母の春子が気付いて大きな声を出した。
「いいのよ。ちょっとした事故みたいなものよ。後で自分で何とかするから騒がないで、お願い」
エリは何でもないことのように軽く受け流して、トーストにジャムを塗った。
その日、佐藤愛菜ちゃんと連れ立って少し早めに登校したエリは、普段と変わらずクラスメートに挨拶し席に着いて辺りを見回した。健一君と広大君がチラッとエリの方を見たが、二人とも何も言わなかった。
授業開始のチャイムと同時に伊藤先生が教室に入ってきた。先生が教壇に立って「おはようございます」と声を掛け、生徒たちも「おはようございます」と一斉に挨拶を返した。その直後、エリがすっと立ち上がった。