看護師がヒョンソクの腕に注射の針を刺していた。彼は目をあけて周囲を見回し、自分がどこにいるのか考えを巡らせていた。彼は看護師が病室を出て通路へ消えていく姿を眺めた。だれかの姿がベッドの向こうに見えた。彼は彼女を見た。
「あの……失礼ですが、どなたでしょうか?」
ヨンミは彼に笑いかけた。
「えっと……どなたですか?」彼はまた尋ねた。
「私よ」
「だれ?」
「私よ、ヨンミです」
ヒョンソクは呆然とし、彼女を見つめながら、ベッドから体を起こそうとした……。
「私のことがわからない? チュ・ヨンミです」
「チュ……ヨンミ?」
ヒョンソクは信じられないという表情を浮かべた。彼らは長い間無言でお互いに見つめ合っていた。ヨンミは彼を見つめ、ほほ笑んでいた。ヒョンソクは夢なんじゃないだろうかという思いで彼女を凝視し続けていた。
彼は生涯をかけて彼女を夢見てきた。彼女に対しての深い愛は、一人息子と孫娘に対する愛にも増して深かった。正直、彼にとって息子と孫への愛は、ヨンミに対する一生の愛に比べればさほど大きくなかった。そしてそんな彼女が今彼の隣にいる。彼は信じられなかった。
朝、自ら命を絶とうとしたばかりの、今日というこの日に……彼は、この地球上で彼女と再会するとは思いもしていなかった。ヒョンソクは彼女の愛らしい顔の部位一つ一つに見とれ、これまでよりも千倍は彼女を愛していると思った。その美しい女性は確かに彼の時間の中にいて、彼女は彼のベッドの傍らで彼のことを愛おしそうに眺めていた。
それは夢ではなかった。彼は言葉が出てこなかった。ただ彼女を凝視し、唇を震わせていた。
「私たちが出会ったのは三十年前」
ヨンミは静かに言った。
「三十二年前だ」
ヒョンソクが訂正した。ヨンミがほほ笑んだ。
「なぜここに?」
ヒョンソクは問うた。
「緊急手術室へ運ばれていくあなたを見かけたの」
「あぁ、そうなのか……きみからの知らせを、長い間待ちわびていた」
ヒョンソクは低い声で言った。
「まさかここであなたを見つけるなんて、信じられない」
ヨンミはやさしい声で彼に言った。