突然、彼はヒョンソクが弾く〈ウェーブ〉を聴きたい衝動に駆られた。この曲もやはり聴いて覚えたのだろうと彼は思った。
「ヒョンソク、以前にも〈ウェーブ〉をよく弾いていたのか? 」
チュ先生が質問した。ヒョンソクは首を横に振った。チュ先生は重ねて質問した。
「〈ウェーブ〉の楽譜を見たことは? 」
ヒョンソクはまた首を振った。
「では、ラジオで聴いた曲を耳で覚えて弾いたのか? 」
ヒョンソクはうなずいた。先生は顎でピアノを示した。ヒョンソクは少し躊躇ったが、ピアノへ向かって歩いていき、その前に腰を下ろした。彼が演奏を始めようとした時、窓の外でセミの鳴き声が聞こえた。ヒョンソクは立ち上がり、窓を閉めて戻ってきた。彼は、一度深呼吸をしてからピアノを弾き始めた。
彼の演奏は完璧で優雅だった。その上、容易に演奏しているように見えた。長い間その曲を演奏してきたかのように。彼の演奏は、原曲と比べても、遜色のない演奏だった。ただの素人ピアニストにすぎないというのに。ヒョンソクは、その曲が持つ特徴的なあの柔らかなリズムを理解していた。静かな湖の水面に投じられたなめらかな小石が、やさしく水面を跳ねるような、そんな音を理解していた。
生徒たちはお互いに顔を見合わせ、ヒョンソクが披露する技巧に驚いていた。ヨンミはヒョンソクに笑顔を向けた。
チュ先生にはほほ笑む余裕などなく、ヒョンソクが持つ才能に驚嘆していた。彼はその才能の意味を察した。彼は衝撃を受け、驚いた表情を浮かべながら心の中で考えていた。
〝どうしたらこれほど見事に弾けるのだ。まったく信じがたい〟チュ先生がそんな考えを巡らせていたその時、何者かが乱暴にドアを蹴り破る音がした。どれほど強い衝撃だったのか、蝶番が外れてドアが吹き飛んだ。そこに現れたのはヒョンソクの父親のヨンジュだった。
ヨンジュは怒りに燃え、手には木の棒を握っていた。彼はピアノの前に座っている息子へ近寄っていくと、木の棒を振り回し、息子に向かってわめいた。
「このおろか者め! 狂ったのか? コンテストに向けてヘグムを練習しなければいけないのを忘れたのか! なぜまたこんなところに来た。お前の居場所はここではない。楽器とも言えないような、こんなくだらない楽器に関わるなと言ったはずだろう! いるべき場所へ戻って、これよりはるかに上等な楽器の練習をしろ! さっさと立て! 今すぐ帰るぞ! 」
ヒョンソクはその場に凍りついた。自尊心を傷つけられた彼は、困惑してうつむいたまま椅子から動かなかった。動こうとしないヒョンソクに、彼の父がまた暴言を吐き始めた。彼はがなり立て、また木の棒を振り回し、怒りに燃える目で息子を睨みつけた。
「立て、帰るぞ、今すぐにだ! 」