【前回の記事を読む】「関節手術に手を出すのは危険だ」と医師が結論を出した理由

広島県にリウマチ学を移植する

治験に救われる

健診体制をスタートさせた1999年ごろはまだ病院に勢いがあり、当分の間は少々の負担には耐えられると踏んだ。

しかし、生物学的製剤が広く使われるようになった状況下では急激な変化が起こると予測され、2~3年先を読んで見通しを立てねばならない。ここでも私の運の強さが示された。

2001年に中外製薬の方から思いがけない話が持ち込まれた。中外製薬が開発した分子標的薬―生物学的製剤(Bio)、現在の商品名アクテムラ(MRA)の治験を東広島記念病院でしてもらえないかとの話が持ち込まれたのである。内容を聞くと当院では簡単なことだし、かなりの収入になるという。

薬は開発して世に出すまで、特定の病院で厳格な管理下で患者さんに対し試験的使用をせねばならない。これを治験という。製薬メーカーはその間治験を担当してくれる医療機関に対し報酬を一例いくらという形で支払うわけである。

アクテムラは阪大の岸本忠三教授のグループが開発したIL-6に対するレセプター抗体である。先に発売されたレミケード(注)と同類の生物学的製剤(Bio)である。私はその開発の経緯はいささか知っていたので申し出をOKし、我が国初のBio16例の治験を開始した。

その効果は劇的で、寝たきりの患者は1~2週の内に全身状態が著しく改善し、ベッドから降り、最初は伝い歩き、次いで独歩へと急速に改善した。リウマチ治療のパラダイムシフトと呼ばれた生物学的製剤の効果をわが国で初めて2001年に体験し、この目で見たわけである。


(注)レミケード:TNFαという炎症反応に関与する生体内物質の働きを抗体で抑える薬剤。もともと身体には存在するが関節リウマチでは異常に増えて関節病変を起こす。