【前回の記事を読む】【小説】「黙って食べなさい」餅のようなものの不思議な味とは
かすかな甘みのする餅
「なにかやってみたいことはあるか?」
はるなは石臼の中の精製された朱を見た。美しく赤く輝いて見えた。
「石臼と石杵ですり潰すのをやってみたい」
と、ゲンタが言った。イノシシを担いでくたびれていたことは、もう、忘れ去ったようだ。大きな声が出ている。
「水であらうところをやってみたい」
リュウトとみやが言った。リュウトは体力回復には今ひとつといった感じだが、元気を取り戻しつつある。
「僕は朱の入った砂粒とただの石をより分ける」
ショウが言ったので、あとの三人もそれに従った。
「赤いところを取り出すコツが分かったわ。軽くコツコツ叩いて、それを繰り返すのよ。一気にしたらダメ」
とはるなが言った。でもすぐに腕が痛くなった。
しばらくやってみたがどれも大変だった。代わり合って全工程を試してみたが、まともにできる仕事は何もなかった。
「働くって、大変」
さゆりがつくづくと言った。
「ここの人たちもよく根気が続くわ。手や肩が痛くなる」
「うん、仕事をするって大変なんだって分かった」
とみやも大きく頷いた。洞窟にいた男が、
「いま、しゅをはこぶふね、きている。ふねのぶじ、ねがうまつり、している。みにいくか?」
と誘った。いつの間にかほかの作業員と同じ服に着替えていた。ザンバラ髪を、きちんと梳かし付けて耳の両側で髷を作っている。耳には朱で彩色された陶器の耳飾りをしている。男について村の外に出た。振り返って、みやがつぶやいた。
「思い出した。小さい時に連れて行ってもらった登呂遺跡さぁ。こんな建物だに。竪穴式住居と高床式倉庫とか言ってたけれど、こういう使われ方をしてただら」
竪穴式住居の集落から大きな川に沿って少し下ったあたりで川が大きく右にカーブしている。手前にはかなり広い河原がある。その河川敷に人だかりがあった。集落も望める。
「やっぱ、この川のカーブ、学校の前の川に違いないけど、コンクリートの土手もない。変」
「うん。学校も猫神さんもない。なんか、おかしい」
「ここは、なんだか……」
ショウとさゆりがまたいぶかしげな声で話を蒸し返した。
「ママ……」
ちさがぽつりとつぶやいた。