なぜ俺では駄目なんだろう、未成年だからか?そうしているあいだも、母さんの状態は悪くなっていくのが見ていてもわかった。
俺は母さんの側についていたかったが、医師は書類にサインできる大人を連れてこいという。困ったあげくに、家を出るとき悪い予感がして念のために持ってきた、母さんの弟の電話番号に連絡した。
電話越しに、あまり協力的でないのが伝わってきた。叔父さんが、父さんの電話番号を教えてくれた。
ますます気後れしながら、電話をかけた。すっかり暗くなった時間だったから、電話はすぐにつながった。
「誰?」
面倒くさそうに、父さんは言った。
「あの、僕、息子の曜です」
「なんの用?」
その冷淡な口調に足がすくむ。でも、言うしかない。
意を決して、「母さんが脳梗塞で倒れてしまって、病院で大人を連れてこいって言われて、僕じゃ身元引受人になれないんです。叔父さんに電話したら、父さんに頼めって言われて、ほかに頼める人誰もいないんです」
一気にそこまで話した。電話の向こうの父は叔父と同じで、ますます面倒くさそうに言う。「それで俺にどうしろと? もう十年以上前に他人なんだぞ」
「わかっているけど父さん、母さんが死んじゃう」
自分でも意外なほど、俺は臆面もなく泣いていた。
「父さん、なんとか頼みます」
あとは言葉にならなかった。なんとか、なんとかお願いしますと、くり返した。
「病院の名前と場所と、最寄り駅を」
父は渋々だった。
知る限りの情報を伝えた。電話は向こうから切れた。来るとも来ないとも言わなかった。一秒でも早く、母さんの側に行きたかった。
救命救急に引き返すと、母さんは処置室に運ばれたと言われた。場所を聞いて急いだ。朝からなにも食べていなかったので、思考が停止していた。
処置室と書かれた個室のベッドに横たわる母さん、さっきと違うのは、動かなくなっていたことだ。人工呼吸器を装着されて、まだ体は温かかった。
よかった、まだ生きている。
手を握り続けた。そこに父さんが来て、でも、なにを言えばいいのかわからなかった。父さんは、俺の知っている父さんではなかった。
書類を書いて、押印をして、お金も渋々払ってくれた。消沈している俺にパンをくれたが、半分ぐらいしか食べられなかった。
そしてたった四日で母さんは死んだ。