【前回の記事を読む】【小説】子どもたちが連れて行かれた「もうひとつの村」での出来事
かすかな甘みのする餅
一人が外へと出て行き、餅のようなものを皿に盛って帰ってきた。ペットボトルの高さ程もある高い台の上にパン皿のような平らな皿がのっている。台には一円玉ぐらいの小さな穴が整然と並び、皿には横に二本の筋がきれいに描かれている。
灰色がかった茶色の皿は素焼きだが、所々に淡い鼠色や緑のつやつやとした模様が浮き出ている。その皿の上に半透明で薄茶色の丸い餅が盛られている。
ショウがその皿を軽く爪で叩いた。家にある食器と違って鈍い音がした。
「少し低い温度で焼かれている。ばあちゃんがこんな音の焼き物は温度が低いって言っていたけん」
ショウが言うと、ショウの後ろからちさもその皿を物珍しそうに眺めた。
はるなもこんな皿を見るのは初めてだった。餅を持った人について猫が二匹入ってきた。オレンジと白と黒の三毛猫とキジトラのぶち猫だ。キジトラがはるなにすり寄ってくる。おなかをはるなの足にスリスリとしてきたので、あごを撫でてやるとグルグルとのどを鳴らした。三毛猫は尻尾が極端に短い。
「おまえ、ジャパニーズボブテイルだな。三毛猫でジャパニーズボブテイルの雄猫だとめちゃめちゃ高いんだぞ」
ショウが三毛猫に話しかけた。人なつっこい猫だ。
ちさが猫に向かって身をかがめ、手を差し出すと、二匹ともちさと戯れだした。少しちさの顔色が戻ってきた。
「あのせいたかのっぽのたてもの、こめやどんぐりをいれるため。ねずみがねらっている。ねこがいるとねずみはこない。ねこはばんにん」
と、女性が説明した。
「そのねこはめす、おすじゃない。めす、かりうまい。めす、こどもをうむ。ばんにんふえる。めすがうれしい」
「なんだ、雄じゃないのか。残念」
ショウが残念がったが、それ以上にゲンタもがっかりしている。猫達はにゃあと鳴いて、餅を持ってきてくれた人の足にじゃれつくようにゆっくり出て行った。