【前回の記事を読む】農業は一万年前から始まっていた!? 地域ごとのルーツに迫る!…

第一章 人類は農業技術の発展によって人口を増やしてきた

《一》近世までの農業の歴史

農業開始の意義ー農業は人口扶養力を増大させる

人類にとって、もちろん、他の動物にとっても、食料は不可欠のものです。チンパンジーなどの類人猿の段階でも、ホモ・エレクトスの原人の段階でも、出アフリカをしたホモ・サピエンスの時代にも、縄張りを作り食料を求めて狩猟採集の移動を繰り返していました。

それが前述のように一万年前頃から一定の場所に定住し、農耕・畜産つまり農業を開始しました。それは温暖化が進み、草原が森林化し、マンモスなどの大型草食動物が減って、狩りができなくなってきたという事情もありました。自然の動植物を狩猟採集するのではなく、自分たちで自然の環境や動植物に働きかけて食料を生産するということは、人類にとって大きな飛躍でした。

狩猟採集と農業を比較した場合、農業が潜在的に持っている大きな人口を支える力は、あらためて強調するまでもありません。一般に狩猟採集民の人口扶養力は一平方キロメートル当たり一人であるといわれています。農業の発展段階によっても異なりますが、狩猟採集よりも農業は一〇〇倍以上の人口扶養力を持っていることは確かです。人類が農業を開始しないで狩猟採集の生活を続けていたとしたら、現在の地球人口は一億人ぐらいが限度だったでしょう。

というのは、世界の総陸地面積(148,940,000平方キロメートル)から南極大陸(14,400,000平方キロメートル)を差し引きますと、134,540,000平方キロメートルになります。仮に一平方キロメートルに一人の狩猟採集民が住めるとしますと、一億三四五四万人しか住めないことになります。この農業を始めた一万年前の人口は、四〇〇万人ぐらいと推定されていますが、紀元前五〇〇年頃に一億人を超え、紀元前三〇〇年頃に一億三〇〇〇万人、つまり、一人/平方キロメートルを超えていますので、この頃から農業を開始していなければ、狩猟採集の地球社会は殺伐としていたかもしれません。

西暦元年頃に二億五〇〇〇万人になった人口は、現在は七八億人を超えていますので、七八億人を134,540,000平方キロメートルで割りますと、五八人/平方キロメートルとなります(正確な人口密度は南極大陸も入れて考えますから、これより一割少なくなります)。ちなみに、日本の人口密度は三三二人/平方キロメートルです。

つまり、現在の地球の農業システムを平均的に指標で表わせば、「五八人/平方キロメートルを食わせることができる農業(食料生産)システム」と言えます。二一世紀末には一〇〇億人になることが予想されますので、二一〇〇年には「七四人/平方キロメートルを食わせることのできる農業(食料生産)システム」が目標となります。