【前回の記事を読む】オオカミ、鷲、マムシに襲われる!? 凄まじい生活を送る男たち
なぞの男
洞窟の男は「ついてこい」と子供たちに言った。道は獣道ほどの広さに木々が生い茂り、曲がりくねって見通しがきかない。野生動物が潜んでいることもある。はぐれれば命取りになる。一本の長いロープを持ってきて、皆が左手で持つようにと言い、決して離してはならないと注意した。
男を先頭にショウ、女子四人、ゲンタ、リュウトの七人が後に続いた。男ははるな達が上ってきた川沿いではなく、少し高い所を川下の方向に進んでいく。自然に踏み固められてできた狭い道だ。先ほどの辰砂の採石をしていた所ほどではないが、次第に登り坂となり、細くて険しい登り坂を一度尾根まで登った。そして、川が展望できる所まで来ると急に下りになった。
登り坂は足が上がらず、疲れて息が切れたが、下り坂は石がコロコロと足下で転がって転びそうになる。さらに所々、粘土質の地面があり、こちらはにゅるりと足下が逃げる感じがする。「ここはじゅるい。気、付けや」とみやがはるなを促した。
山道に慣れないはるなは、一歩一歩、かかとに力を入れ、転ばないように注意しながら進んでいった。男は慣れた様子で軽々と進んでいく。よく見ると、男は右へ左へとジグザグに歩いている。ショウも男のまねをしてジグザグに歩き出した。
男は時折後ろを振り向き、子供たちを確認している。女の子たちは回りの木の枝やマタタビなどのツルに捕まりながら歩くのだが、うまく歩けない。特にはるなとみやが歩きにくそうにしている。時々、転びそうになり、後ろからゲンタやリュウトが支えた。
途中の坂道が少しなだらかな所で、男が道ばたのナズナをちぎり、実を少し下へと引いた。皮一枚で二十個ほどの種が軸にぶら下がり、軸を両手に挟んでくるくる回すとシャリシャリときれいな音を立てた。ナズナをシャリシャリ言わせて遊ぶうちに、はるなも疲れを少しだけ忘れることができた。
ちさがポケットを探り、飴をひとつかみ取り出した。元気が出て、再び歩き出すことができた。