【前回の記事を読む】【エッセイ】「買う金がないやろ」不良のリーダー格に誘われ…

二、君の人生お先真っ暗になるよ

翌日、暑い日だった。道ばたの日陰で床机を置いて、その本を読んでいた。S君がやって来た。

「棚橋。その本、新しい本やないの? 買ったの?」

と聞かれた。S君には、嘘は言えなかった。そして、本当のことを伝えた。

「棚橋。それは、まずい。窃盗罪や。いけないよ。君が直接盗ってなくても共犯になる。本は、Nに返し、本屋へ返せと君から言えよ。このことがバレたら大変なことになるよ。君の人生お先真っ暗になると思う。早くNに返してこいや。そして、今日以降、彼らと付き合うなよ」

と忠告してくれた。ほんとに、そうだと思った。私は、直ぐにNとKに会いに行った。二人は中学校の中庭にいた。Nに、貰った本を返し本屋に詫びて返却する旨、強く求めた。しかし、彼らには、その意思は全くなく開き直った。

「棚橋。お前には、物を与えたり色々と大事にしてやったやないか。それを忘れて、俺らを裏切るつもりか。どうやねん」

と詰め寄られた。

「はっきり言うけど、悪いことをしたとは思わない君らと付き合ってたら、俺の人生悪くなるばかりや。だから、この際、絶交したいんや」

と言い返した。

「なにぃ!」

とNとKは怒り出した。喧嘩をしても、二人には負けない腕力を持っていたが、ここは、じっと我慢して抵抗しないでおこうと思っていた。Nが、左手で私の胸ぐらを掴み引き寄せ、右手で私の左の頬を思い切り、張り飛ばした。そして、強く押されて倒された。口から血が出た。二人から殴る蹴るの暴行を受けた。私は、一切反抗せずに、彼らの思うまま気の済むまで、暴力をふるわせた。抵抗せずに、じっと我慢をしていた。これを辛抱したら絶交が出来るんやと思うと、痛みを堪えて我慢に我慢を重ねた。

ぐったりした私を見た二人が、「棚橋。もう、お前とは、絶交や」と捨て台詞を吐いて立ち去って行った。暫く痛くて立ち上がれなかった。蹴られた腕や両足が痛かった。そして、学生服の上下のホコリを払い、足を引きずりながら自宅に戻った。

祖母から「正夫。どうしたん。その格好は。喧嘩でもしたんか?」と言われた。「いいや。おばあちゃん。冒険ごっこしてて、こけたんや。大丈夫だから」と嘘をついた。「服が汚れているやないか。洗ってあげるから脱ぎなさい」と優しく言われ素直に従った。

1週間位、痛みは続いたが、NとKの縛りから解放されてホッとした。このことは、これまで誰にも話さず、今回初めて明かしたことだ。その後、NとKは、婦女暴行や窃盗を繰り返したり、下級生から金を強奪したりして、二人とも逮捕され少年院に送られた。私は、S君のお陰で助かった。中学時代の友人から、彼は、現在、京都で会計士として事務所を構え多忙な毎日を送っていると聞いた。一度会って話したいが詳しい所在は分からなかった。