俳句・短歌 四季 2022.06.01 歌集「漣の夢」より3首 歌集 漣の夢 【第109回】 上條 草雨 中国江蘇省・無錫に留学し、その地の美麗さに心奪われた著者が詠み続けた、珠玉の短歌二一〇〇首と三九首の漢語短歌を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 幾羽いくわもの野鳥の群れに驚きと 蜻蛉一匹漂うを見る 草の上木々の傍かたわらあちこちに 紋白蝶が清純せいじゆんに舞う 電動車でんどうしや沿道走る気持ち良さ 樹木の香る清涼な風
小説 『春のピエタ』 【第7回】 村田 歩 刑務所で、お袋と13年ぶりに対面…こんなに小さな女だったか―。あの頃、生活が苦しく、いつも歯を食いしばっていたお袋は… 俺たちは婆さんより早く呼ばれた。刑務官に案内されているとき、初めて親父が落ち着かない様子を見せた。首から下は先を行く刑務官に素直に従っているのに、首から上はまるで道を見失ったかのようにあたりをきょろきょろ見回している。勝手が違う、といった顔だ。俺は急に不安になった。悪い想像が浮かぶ。たとえばお袋は急病で、敷地内の医務室のベッドで身動きできなくなっているのではないか。だからいつもの面会室で会うこと…
小説 『人生の切り売り』 【第10回】 亀山 真一 初めての恋人をネタにした話を書いたら映画化!さらに続編を企画してもらえないかと嬉しいオファー 「初恋も未経験の十六歳が何をそんなに焦ってたのか。確かに女子高生が女子高生でいられるのは三年間だけだけど、そう思えるのもだいたい大人になってからでしょう」ベッドの上でうんうん唸る私を、冷たい視線が見下ろしていた。「困ってるなら、僕が書かせてあげようか?」「そのやり取りも飽きたなあ」「飽きた……?」悪魔が目を丸くする。この男にこんな顔をさせるなんて、私もなかなかやるではないか。「大丈夫。まだ上手く…