しかし今、それは冷たい刃(やいば)のように典子の耳に触れていった。俯けていた顔を恐る恐る上げた。「泊まっていかれるのだもの」と、平静を装って続けた。「お話しする時間は沢山あるわ」この日をずうっと切望していたはずなのに、話したい事は山ほどあるのに、しかし心の中にはそれを怖れる典子がいた。「またとない機会ではあるわ、深い話を伺うには」茉莉は口元に薄い笑みを浮かべた。「そういう事なら連絡を入れておかな…
[連載]薔薇のしるべ
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小説『薔薇のしるべ』【第5回】最賀茂 真
まだ着いたばかりなのに、今にも帰るような話になってしまったのを悲しく思った。
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小説『薔薇のしるべ』【第4回】最賀茂 真
「泊めていただけるという事かしら?」 その声色は、本心を隠すようにしゃがれていた。
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小説『薔薇のしるべ』【第3回】最賀茂 真
「あの手紙が届いた時、一体何の事かと思ったわ」 薔薇が断ち切られた時間を再びつなぐ…
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小説『薔薇のしるべ』【第2回】最賀茂 真
青いシャドーに真紅のルージュをひいた友人。二十年ぶりの再会に嬉しいはずが…
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小説『薔薇のしるべ』【新連載】最賀茂 真
庭仕事をしていると誰かが訪れた気配がして見に行くとそこにいたのは…