【前回の記事を読む】夫が来たのは一度だけ、私が本当に一人で暮らしているのか、確かめに来ただけ。

第1章

テラスにて

隣の椅子に手が知らずに動いていた。先ほどせわしく丸め置いた園芸エプロンを取り、立ち上がると、それをさっと胸前に広げた。

茉莉は、―― 何事?―― と言うように顔を上げた。

「どう見えるかしら?……私」、声が勝手に出ていた。自分ではない、ぶりっ子を装った声。

「フローラの花守りに、見えるかしら?」

茉莉の顔に一瞬驚きの色が浮かんだが、すぐに冷笑するような表情に変わった。茉莉は何も言わずしばらく典子を見ていたが、眼差しを落とすと再び薔薇庭の方に顔を向けた。

勢い込んで言ったものの、哀れで滑稽なピエロにでもなったような気がした。

―― 何て馬鹿な事をしたんだろう、きっと呆れ返っているのだわ……――

高校生の頃はよく一緒にショッピングに行った。渋谷や原宿、あれこれと店を回り、選んだ物をお互いに着替えっこした。マリも私も満面真顔で、ファッションモデルのように 闊歩し、最後は後ろも見せるようにクルリとステップで回った。

―― もうあの頃のようではいけないのだ―― と戒め誓ったはず。

典子は思わず、とってしまった自分の振る舞いに、恥ずかしさと後悔に揺らぎながら、ただ、立ち尽くしていた。

腰回りのゆったりとしたチノパン。長袖の生成りの綿シャツ。その上に広げた幾つものポケットのついた園芸エプロンという装い。典子は自分の姿を省み思った。

―― 茉莉が押し黙ったままなのも当然なのだ―― という思いが湧いていった。こんな変わりように、私以上に茉莉の方が当惑しているに違いないのだ。

「おかしいでしょう。こんな格好で……本当に農家のおばさんと変わらないもの」

いたたまれずに声を出していた。今度はすがるように潤んだ声になった。