―― もっと冷静にならなければ―― 肩で大きく息をし言った。
「言葉が出ないほど、きっと呆れ返っているはずよ」
典子の方に動いた顔に、苦笑とも冷笑ともつかないものが浮かんだ。
「すぐにはコメントできないわよ!」
面倒なものを一蹴するような言い方だった。
「ええ、きっとそうだわ」
声の調子にたじろぎながら、少し遅れて典子は頷いた。
「驚き、呆れ返られても仕方ないわ」
笑顔を向けるつもりだったが、中途で崩れていくのを鏡で見ているような気さえした。
うなだれた典子の耳に茉莉の声が返った。
「まあ世の中には」、冷たく見据えた目を向けた。
「誰も予想もしなかったような、生き方を変える人もいるものだもの」
「……」
その言い方には相手を思いやるという感じは全くなかった。どうでもいい他人事と言わんばかりだった。
「それも、たいていは本人にしかわからない理由で」
「……」
追い討ちのような言葉に開いた目を、典子はおろおろと茉莉から逸らした。
どう答えればいいかわからなかった。進んで生き方を変えようとした訳ではなかった。何か、このような道が私には運命付けられていたような気がする事さえある。
それを理解してもらうのは、元々かなわない事なのだ。典子は体から力が抜けていくような気がして椅子に凭れた。