【前回の記事を読む】気になる女性へアプローチ「僕を男性と思って話してくれた」

新しい性と希望

久しぶりにデートの約束ができたのに今度は葛藤が生まれた。僕には彼女に嘘をついて付き合うような罪悪感がつきまとっていたのだ。昔の僕の戸籍が女だったという事実は変えられない。彼女に対して隠していたいと思う反面、ありのままの僕を受け入れてほしいと願う自分がいた。

結局、僕は彼女に本当のことを打ち明けられずに初デートを迎えた。好きな人とのデート、それはずっと願ってきた幸せだった。

僕は横浜の観覧車に彼女を連れていった。すっかり浮かれていた。

しかし、彼女はずっと遠くの景色を見ていた。景色を見ていると言うより、何か遠くの人を想っているようにも見えた。僕がそう感じたのは、その時彼女の横顔はとても悲しそうだったからだ。

届かない人に手を伸ばしているようだった。

それでもデートはとても楽しかった。僕はこのままFTMであることを隠してもっとデートがしたかった。しかし、何かから目を反らした時に感じる幸せは、一時的で、本当の幸せにはたどり着けない。

だから僕は、デートの終わりに車の中で本当のことを打ち明けた。驚かれるかと思ったら、「知ってた」と笑顔で言われてしまった。

今は名前を検索すれば、ある程度の情報が手に入る時代なのだ。彼女はたまたま僕の名前を検索した時に発見したようだ。

しかし彼女には別に好きな人がいた。だから一度、断られてしまったのだ。

彼女の前では強がっていたが、あの時は相当ショックだった。それでも僕は立ち直れた。それは、僕自身のことを理解し、支えてくれるたくさんの仲間がいたからだ。あの時、僕のために何度も話を聞いてくれて、集まってくれた仲間には感謝してもしきれないくらいだ。

ようやく僕が彼女のことを諦めかけた時に、彼女からもう一度連絡がきた。

僕は、彼女といる時間が好きだった。一緒にいて居心地のいい人だからだ。

だから僕は会った時にもう一度告白をした。顔は見なかったが彼女は静かに言ってくれた。

「うん」

こうして僕は彼女を作ることができたのだ。あの時、彼女が僕の元へ来てくれたことがとても嬉しかった。