俳句・短歌 四季 2022.05.21 歌集「漣の夢」より3首 歌集 漣の夢 【第107回】 上條 草雨 中国江蘇省・無錫に留学し、その地の美麗さに心奪われた著者が詠み続けた、珠玉の短歌二一〇〇首と三九首の漢語短歌を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 チチツーと繊細せんさいに鳴く野鳥いて 小枝を通し清い声聞く 霧晴れて山頂の上くっきりと 趣き深く古楼閣ころうかく見る 庭先の艶あでやかに咲く淡紅花たんこうか 一つ二つと多数咲き出す
小説 『春のピエタ』 【第7回】 村田 歩 刑務所で、お袋と13年ぶりに対面…こんなに小さな女だったか―。あの頃、生活が苦しく、いつも歯を食いしばっていたお袋は… 俺たちは婆さんより早く呼ばれた。刑務官に案内されているとき、初めて親父が落ち着かない様子を見せた。首から下は先を行く刑務官に素直に従っているのに、首から上はまるで道を見失ったかのようにあたりをきょろきょろ見回している。勝手が違う、といった顔だ。俺は急に不安になった。悪い想像が浮かぶ。たとえばお袋は急病で、敷地内の医務室のベッドで身動きできなくなっているのではないか。だからいつもの面会室で会うこと…
小説 『溶けるひと』 【第10回】 丸橋 賢 「死んでもいい」今までの過ちと覚悟を激しく息子に訴えかける母。息子を正そうとするも、母は自らの鈍感さに気づき、息をのんだ。 これを何とかしなければ地獄が待っているのだ。実知は布団ごと知数を強く揺さぶった。「知数、起きてちょうだい。ここに座って。お母さんの話を聞いて、考えてちょうだい。私は本気よ。お前が元気になるなら、私の命なんかいらないと思っている。命をかけて、お前と話し合いたいの、それができなければどうなるかわかっているじゃないの。お前も私もお父さんも、先がなくなるだけなのよ。私たちは、だから、選ばなければいけない…