【前回の記事を読む】「命を奪ってしまう」少女と同じ力を持っていたまさかの人物
訓練
次の日から、恭子はラットでの訓練を始めた。
車で昨日来た研究施設に連れてこられ、昨日とは別の部屋に案内された。部屋の中はやはりがらんとした白い空間で、壁の一面が黒いガラス張りになっており、中央に机が一つだけある。側には白衣を着た女性が居て、恭子を机の前まで促した。
椅子に座ると、机の上には透明なケースがあり、ラットが一匹入っていた。ふと視線を正面に向けると、壁の方にはカメラや器具が置かれていた。
恭子がその器具類を凝視していると、白衣の女性が、貴女の能力を解明するために、各種センサーがこの部屋にはあると説明した。一通りの説明を受けた後、承諾書に署名もさせられた。署名が終わると、身体中にセンサーが取り付けられた。
「それでは、ラットを乗せますから、手を出して下さい」
言われた通り、手袋を外し、両手を水をすくう形にして机の上に差し出す。女性はケースの中からラットを取り出し、恭子の掌に乗せた。ラットの体温が伝わってきた。ラットは掌の中で、鼻を上に向け、ひくひくと動かしている。その姿に、恭子は思わず“可愛い”と感じた。
その途端に、ラットは急に身体を丸め、元気が無くなってしまった。体温も心なしか冷たくなっている。恭子は思わず掌を開き、机の上にラットを置いた。ラットは横向きになって動かない。どうやら、恐怖や怒りなどの負の感情だけで無く、恭子の感情の高揚次第で生命力を奪う力は発動してしまうようだ。
感情をコントロールする。
祖母の言葉を思い出した。どうすればそんな事が出来る? 恭子は自分に問いかけた。生きている限り、人は常に情報を受け取り思考し、それが感情となる。思考を止める事など出来るのだろうか。
ラットを見つめていると、横から白衣の女性の腕が伸びてきて、ラットを掴んだ。そのまま、ケースにラットをしまう。ケースに何かが書かれたシールを貼り、ケースを持ってガラス張りの壁に向かって歩き出した。壁の一角に穴が開き、女性はその穴にケースを入れた。
壁に立ったまま女性が待っていると、ケースは戻ってきた。壁の中に消えた物とは別のケースだ。シールが無く、中にいるラットが元気に動き回っている。先程のラットとは違うラットなのだろう。女性は恭子に近付くと、ケースを机の上に置き、中から新たなラットを取り出した。
「次です。手を机の上に出して下さい」
すぐに次の訓練を始めるようだ。