【前回の記事を読む】スケッチ教室の人の誕生日会で、弱点を言うゲームが始まり…

マドンナの娘

御影はメルロー種の甲州ワインのコルクを抜き、自分と美琴のグラスに注いだ。

「でも先生も大学で挫折してたんだね。そこへいくと島田ちゃんはいい高校、いい大学をストレートに出て大企業に正社員で入って、順風満帆」

「そうなのかもしれません。私勉強も仕事も好きで、もちろん苦手なこともあるしピンチに追い込まれることもありますけど、それも含めてよし頑張ろうと思えるんです。ただ……」

「ただ、男がいない」

御影が断定する。

「どうしてわかるんですか。いやその、三年に一人くらい交際相手は現れるんですけど、好きという気持ちもあるんですけど、長続きしないんです」

「結婚したいと思ったことないの?」

「あまりなくて……二十五歳くらいのときに、すごく気分屋の人とつきあっていて、ケンカが多くて、ある日ケンカした後のデートの待ち合わせ場所に彼がバラの花束を持って現れて、プロポーズされました。うっかり舞い上がってYESって返事したんですが、よく考えるとその人とは価値観が合わないから度々ケンカになるんだって思って、一か月後に返事を取り消しました。けっこう修羅場でしたけど」

「きっと正解だったと思う。あたしにもその冷静さがあれば、人生違ってたなあ」

「でも最近では、私に何か欠陥があるのかなって思えるんです。そんなに立派な人も、相性が完璧な人も現れないだろうし、高望みしているつもりもないんですが、好きだから一緒にいたいと素直に思えなくて」

「仙道君は、島田ちゃんから見てどう思う?」

「穏やかで、一緒にいると居心地がいい感じです」

「じゃあ、試しにつきあってみたら? 年下はダメ?」

「いえ、年はあまり気にしないんですが。私どこか屈折した、繊細な部分のある男性に惹かれてしまうので、仙道さんはいい人過ぎて」

仙道はがっくりと肩を落とした。

「御影さんのせいで、俺告白する前に振られた気分」

「それに、イケメンでモテそうな仙道さんが私なんか好きになる訳ないし」

「待って、それそれ、島田ちゃんさ、あ、美琴ちゃんって呼んでいい? 美琴ちゃんすごくかっこいいしかわいいのに、女性としての自己評価が低いんだよね。何でだろう」