映画で紅茶見聞録@ザルツブルグとウィーン

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1970年代は、当時のティーンエイジャーにとってその時代の情景と結びつくように、様々なジャンルの音楽が流行しそして聞かれていた。ブームが終わろうとしている頃のグループサウンズやアイドルのヒット曲、そしてラジオの深夜放送から入ってくるロックやポピュラーの洋楽の中から、私の場合は段々と敢えてとっつきにくいジャズにもこだわって聴くようになっていった。

心の中で、「俺は違うんだ」という感じで、少し背伸びしてカッコをつけていた。高校から大学にかけて通学ルートでもあった渋谷駅、その井の頭線のガードからほど近い裏小路の坂道にJAZZ喫茶「オスカー」があった。真っ暗な中にかすかに赤や青の蛍光色に明かりが灯るサイケデリックな趣の店内で、大型スピーカーから曲名も知らないジャズ演奏が爆音で流れていた。

その当時は、そもそもJAZZのインプロビゼーションすなわちアドリブ演奏が、コード進行や決められたモードというルールに基づいて、曲ごとの決まった長さのテーマ分の小節数を繰り返し、即興で演奏されることなど、全くわかっていなかった。

しかしそんなジャズの曲の中で一度聴いたら忘れないような、耳に焼き付くようなソプラノサックス演奏の曲があった。ややノスタルジックなメロディーに心惹かれるその不思議な曲は、映画『サウンドオブミュージック』の中の有名な一曲『マイフェイバリットシングス(MyFavoriteThings)』のジョン・コルトレーンによる演奏であった。

原曲のメロディーから始めて徐々にグルーブ感ある音色を奏でながら、やがて全く独自の世界に聴衆を巻き込んでゆく。そしてワンコーラス、ツーコーラスとモード奏法によるアドリブ演奏が進み、怒涛の如く激しさを増してゆく。