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楽しき遊学生活
抗リンパ球抗体については日本で4年間の積み重ねがあり、その仕事内容も延長線上であった。
私が当時持っていたアイデアはより強力な抗血清を得るため、胸腺細胞を比重遠沈法で重い胸腺細胞と軽い胸腺細胞に分け、それらを使って抗血清をつくるというものであった。胸腺細胞に重い、軽いがあるかどうかさえわからない状況下でのアイデアで、文献をあさり、比重遠沈法の手技を探り、最終的にConray─Ficollの連続比重遠沈法で胸腺細胞を分別することにした。数か月にわたる実験の繰り返しと試行錯誤の末、納得のできる細胞分別ができ、重い胸腺細胞と軽い胸腺細胞に対する抗血清を作成した。
残念なことに結果は変わらず、同じ力価の抗血清しか得られず、この実験は失敗に終わった。しかし、副産物としてラットの骨髄細胞から高純度にリンパ球を取り出すことに成功した。その結果にネイルン教授は大変満足し、一流雑誌〝Immunology〟に投稿し、早々に受理されペーパーとなった。このことで私は一躍ネイルン教授から厚い信頼を得た。彼はこの後私に期待し、彼自身がやってみたいこと、面白い論文内容の追試など「征三、これをやってくれ」と次々と注文が出るようになった。
これらの仕事自体、私のPh.D.Thesisに使えるものであった。例えば、
一、抗胸腺細胞血清のリンパ球表面への付着様相の電顕的観察、
二、各種動物の胸腺細胞で牛を免疫して大量の抗血清を作成、
三、T&Bリンパ球表面における免疫蛍光抗体法による抗体分子の分布の在り様、
四、免疫吸着と溶出による抗リンパ球抗体の純化
等々であった。諸々のことに要した実験器具並びに試薬等々はネイルン教授が直々に手配をしてくれたので、私は仕事に専念すればよかった。
コンレイ─ファイコール:連続比重遠沈法。コンレイ─ファイコールを生理食塩水にとかし低比重から高比重に連続的な液層を作る。細胞を上に置き遠沈することで細胞は自らの比重の所に止まり分別できる。
Ph.D.:博士号のこと。大学における通常学位の最高位に位置する。
免疫蛍光抗体法:蛍光色素(フルオレセイン)を利用して細胞にある抗原あるいは抗体の所在を探る手技。